ハザード分析の手順とは?HACCP対応に必要な危害要因の説明と表の作り方を解説

コラム

食品の安全を守るために欠かせない「HACCP」の土台となるのが「ハザード分析(危害要因分析)」です。事故が起きてから対処するのではなく、製造工程に潜むリスクをあらかじめ予測・特定するこのプロセスは、食中毒や異物混入を未然に防ぐための「最強の守り」とも考えられています。 

本記事では、ハザード分析の基礎知識から、生物的・化学的・物理的という3つの危害要因の違い、そして実務で役立つ4つの実施手順までを詳しく解説します。現場で「形骸化しない」分析表を作るコツや成功のポイントも紹介しますので、より確実な衛生管理体制を築くための実践的なガイドとしてぜひご活用ください。 

ハザード分析とは? 

ハザード分析は、食品の安全性を確保するための根幹となるプロセスです。適切に実施することで、製造現場における潜在的な危険を明らかにし、有効な対策を打てるようになると考えられています。ここでは、ハザード分析の基本的な定義について解説します。 

参考:HACCP導入のための7原則12手順 |公益社団法人日本食品衛生協会

 

食品事故を未然に防ぎ製造の安全を確保する工程 

ハザード分析は、食品の製造から消費者に届くまでの過程で発生しうる危険を予測し、未然に防ぐための重要な工程です。原材料に潜む有害な微生物や、製造途中で混入する可能性のある異物などをあらかじめ特定します。問題が起きてから対処するのではなく、起こりうる問題を事前に想定して対策を準備することが目的です。食中毒や異物混入といった重大な食品事故を高い確率で防げるとされます。 

 

HACCPの7原則12手順で土台となる 

ハザード分析は、HACCPを構成する7原則12手順の中で「原則1」に位置づけられる中核的な要素です。この分析結果をもとにして、どの工程を重点的に管理すべきかという重要管理点(CCP)を決定します。最初のハザード分析に漏れや誤りがあると、その後の管理基準や監視方法も不適切なものになってしまいます。HACCPシステム全体が正しく機能するかどうかは、この原則1の精度にかかっていると言ってもよいでしょう。土台となるハザード分析を丁寧に行うことが、確実な衛生管理の第一歩なのです。 

 

評価の対象や目的がリスク評価とは明確に異なる 

ハザード分析と混同されやすい言葉に「リスク評価」がありますが、両者は明確に異なります。リスク評価は、特定の危害要因が健康に悪影響を及ぼす確率と、その重大性を科学的に見積もるプロセスです。一方でハザード分析は、現場の具体的な工程に沿って危害要因を洗い出し、それをどうやって管理・予防するかを決定する実践的な手続きを指します。リスク評価は科学的な見地からの確率論であり、ハザード分析は現場で食品を守るための具体的な行動計画を立てるためのステップなのです。 

 

ハザード(危害要因)の種類3つ 

ハザード(危害要因)の種類3つの解説図

製造工程に潜むハザードは、大きく3つの種類に分類されます。ここでそれぞれの特徴を正確に理解して、適切な予防措置を講じるための準備をしましょう。 

ハザードの種類 

主な要因 

具体的な混入・発生経路 

生物的要因 

細菌 

ウイルス 

寄生虫 

不適切な温度管理による増殖 

従業員からの二次汚染 

化学的要因 

残留農薬 

洗浄剤 

アレルゲン 

器具のすすぎ残し 

原材料に付着した農薬の残留 

物理的要因 

金属片 

ガラス 

硬質プラスチック 

機械の刃の欠け 

照明器具の破損による破片の落下 

 

細菌やウイルスなどの「生物的要因」 

生物的要因は、食中毒の最も一般的な原因となるハザードです。具体的には、サルモネラ属菌や腸管出血性大腸菌などの病原細菌、ノロウイルスなどのウイルス、アニサキスなどの寄生虫が含まれます。温度の管理が不十分だと知らぬ間に増殖してしまう恐れがあり、加熱不足により細菌が死滅しないケースや、冷却の遅れにより細菌が繁殖するケースが多く見られます。適切な加熱処理や、調理器具の徹底した洗浄と消毒が、生物的要因を制御するための基本です。 

参考:食中毒|厚生労働省 

 

残留農薬や添加物などの「化学的要因」 

化学的要因は、食品に本来含まれるべきではない化学物質が混入することで健康被害を引き起こすハザードです。原材料の栽培時に使用された残留農薬や、動物用医薬品などが代表的です。工場内で使用する機械の潤滑油や、清掃用の洗剤が食品に付着してしまうケースも化学的要因に該当します。意図せずアレルゲン物質が混入してしまう交差接触も含まれます。化学物質やアレルゲンを取り扱う際は、保管場所を明確に分け、使用手順を厳格に守る必要があるのです。 

参考:食品中の残留農薬等 |厚生労働省 

 

金属片やガラスなどの「物理的要因」 

物理的要因は、口に入れた際に怪我に繋がる、または窒息を引き起こす硬い異物が混入することです。製造機械から欠け落ちた金属片や、割れた蛍光灯のガラス片、硬質なプラスチックの破片などが該当します。従業員の装飾品や文房具が誤って製品に混入してしまう人的なミスも物理的ハザードです。防ぐためには、金属探知機やX線検査機を導入するほか、現場への私物持ち込みを禁止するといったルール作りが効果的とされます。定期的な設備の点検も、部品の脱落を防ぐ重要な予防措置です。 

参考:000506678.pdf 

 

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ISO審査・認証 | SAIグローバルジャパン 

 

ハザード分析の具体的な実施手順 

ハザード分析の具体的な実施手順の解説図

ハザード分析は、定められた手順に沿って論理的に進めることが求められます。ここでは、実務で実践するための具体的な4つのステップを解説します。 

手順 

実施内容 

達成すべき目標 

1 

原材料と製造工程の洗い出し 

漏れのない正確なフローダイアグラムの作成 

2 

潜在的な危害要因の特定 

各工程で発生しうる3種類のハザードを列挙する 

3 

リスクの重大性と頻度の評価 

対策を優先すべき深刻なハザードの絞り込み 

4 

予防措置の決定 

具体的な管理方法と改善策を明確に定める 

 

ステップ1:原材料と製造工程を正確に洗い出す 

ハザード分析の第一歩は、製品に使用するすべての原材料と、現場の製造工程を漏れなく把握することです。原材料の受け入れから、保管、加工、包装、そして出荷に至るまでの一連の流れを図にまとめた「フローダイアグラム」を作成します。ここが不正確だと、その後の分析で見落としが発生する可能性が非常に高いです。作成後は必ず現場に足を運び、図面通りに作業が行われているかを確認する現場検証を行いましょう。実際の作業員の動向や、予期せぬ水はねなどが起きていないかを直接観察して図を修正します。 

 

ステップ2:各工程に潜む危害要因を具体的に特定する 

フローダイアグラムが完成したら、各工程に潜む危害要因を一つずつ具体的に特定していきます。ここでは、先ほど解説した生物的、化学的、物理的の3つの観点から漏れなく検討しましょう。例えば「野菜の洗浄工程」であれば、土壌由来の細菌(生物的)、残留農薬(化学的)、小石やゴミの混入(物理的)といったハザードが想定されます。最初は可能性の低いものも含めて幅広く洗い出すことがポイントです。過去のクレーム記録や業界の事故事例を参考にすると、より現実的で網羅的な特定が可能になるでしょう。 

 

ステップ3:発生頻度と重大性からリスクを評価する 

特定した危害要因に対して、実際に起こる頻度と、発生した際の健康被害の大きさを評価します。すべてのハザードに同じだけの労力をかけることは現実的ではないため、管理の優先順位をつけることが目的です。頻繁に起こる可能性があり、かつ消費者の生命に関わるような重大な危害要因は、特に厳重な管理が必要と言えるでしょう。発生頻度や重大性の根拠となる科学的なデータや、公的機関の統計情報(厚生労働省の食中毒統計など)を参照して客観的に評価を下します。この評価をもとにして、必須の対策を絞り込みます。 

 

ステップ4:危害を制御するための予防措置を決定する 

評価した危害要因をコントロールするための、具体的な予防措置を決定します。予防措置とは、ハザードを取り除くか、安全なレベルまで減らすための具体的な作業手順です。生物的ハザードであれば「中心温度75度で1分以上加熱する」、物理的ハザードであれば「出荷前に金属探知機を通す」といった明確な基準を設けましょう。予防措置は抽象的なスローガンではなく、現場の従業員が数値や明確な手順で実行できる形に落とし込む必要があります。複数の予防措置を組み合わせることで、より確実な安全を担保できるはずです。 

 

ハザード分析表を作成する際のポイント 

ハザード分析表を作成する際のポイントの解説図

分析した結果は、文書として「ハザード分析表」にまとめる必要があります。現場の運用マニュアルの基礎となるため、わかりやすく実用的なものにする必要があります。ここでは、ハザード分析表を作成する際に考慮したいいくつかのポイントを解説します。 

チェックポイント 

留意事項 

期待される結果 

明確な表現 

専門用語を避け、現場の従業員が理解できる言葉を使う 

認識のズレを防ぎ、確実な作業を促す 

科学的根拠 

温度や時間などの管理基準に客観的なデータを用いる 

監査時にも説明可能な信頼性の高い管理ができる 

実現可能性 

現場の設備や人員で無理なく実行できる基準にする 

形骸化を防ぎ、継続的な運用を可能にする 

 

ポイント1:誰でもわかる明確な表現で記載する 

ハザード分析表は、品質管理の担当者だけでなく、現場で作業を行う従業員も目にする重要な書類です。難解な専門用語を多用せず、誰が読んでも同じ行動が取れる明確な言葉で記述するのがおすすめです。例えば、「適切に加熱する」という曖昧な表現ではなく、「温度計を使用し、中心温度が75度に達してから1分間加熱を維持する」と具体的に記載しましょう。作業者が迷うことなく手順を再現できるレベルまで表現を調整できれば、現場でのミスを減らす大きな助けになるでしょう。 

 

ポイント2:客観的データや科学的根拠を明記する 

分析表に設定する管理基準や予防措置には、なぜその基準にしたのかという科学的な根拠が求められます。根拠のない独自のルールでは、本当に安全が守られているのかを証明できないことが要因です。根拠の裏付けとして、厚生労働省が発表している衛生規範や、業界団体が発行しているガイドラインの数値を参照しましょう。公的な基準を自社の表に反映させられれば、保健所の監査や外部からの査察の際にも、自信を持って安全性を証明できるはずです。 

参考:HACCP(ハサップ)|厚生労働省 

 

ポイント3:現場で守れる現実的な基準を定める 

どれほど完璧なハザード分析表を作成しても、現場の設備や人員で実行できなければ意味がなくなってしまいます。理想を追求しすぎて、日々の業務を圧迫するような過剰な管理基準を設定するのはおすすめしません。温度測定を数分おきに義務付けるなど、現実的に不可能な手順はすぐに形骸化してしまう可能性が高いです。現場の作業スピードや人員配置を考慮し、品質を確保しつつも無理なく継続できるバランスの取れた基準を設定しましょう。必要であれば、設備の改善や新しいツールの導入も並行して検討することが大切です。 

 

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ISO審査・認証 | SAIグローバルジャパン 

 

ハザード分析を成功させるための注意点 

ハザード分析は一度表を作成して終わりではありません。実際の運用に落とし込み、正しく機能させ続けるためには、いくつかの重要な注意点を押さえておく必要があります。 

注意の観点 

課題となりやすいポイント 

解決のためのアプローチ 

現場との連携 

現場の意見が反映されず、ルールが無視される 

作成段階から現場の責任者をチームに巻き込む 

継続的な運用 

メニュー変更や機械導入時に表が古くなる 

年に一度、または変更があった際に必ず見直す 

外部知見の活用 

社内だけでは気付けないハザードを見落とす 

保健所や外部コンサルタントの助言を仰ぐ 

 

現場担当者の意見を積極的に取り入れる 

ハザード分析を行うチームには、必ず製造現場の責任者や実務担当者に参加してもらいましょう。品質管理部門だけで論じても、現場の実態に合わず失敗する可能性が高いです。現場の従業員は、機械のちょっとした不具合や、作業動線に潜むリスクを熟知しています。彼らの意見をヒアリングし、実際の作業風景を確認しながら分析を進めることで、見落としていた危害要因を発見できるでしょう。現場の巻き込みは、ルールに対する彼らの納得感と責任感を高めることにも繋がるはずです。 

 

定期的な見直しと更新を必ず実施する 

ハザード分析表は、一度完成したら永久に使えるものではありません。新しい原材料を採用したときや、製造機械を入れ替えたとき、さらには新しいメニューを追加したときには、必ず表を見直す必要があります。また、社内で何も変化がなかったとしても、世の中で新しい食中毒の原因菌が発見されたり、法律が改正されたりすることもあります。少なくとも年に一回は分析表全体の検証を行うルールを設けるとよいでしょう。常に最新の状況に合わせてアップデートし続けることが、HACCPの正しい運用姿勢なのです。 

 

専門家や外部機関の知見を活用する 

自社の人員だけでハザード分析を完結させようとすると、知識に偏りが出たり、固定観念にとらわれたりする可能性があります。そのような事態を防ぐため、外部の専門的な知見を積極的に活用するのがおすすめです。管轄の保健所の窓口で相談に乗ってもらったり、食品衛生の専門コンサルタントにレビューを依頼したりすることで、客観的な視点を取り入れられます。また、同業他社の事例や業界団体が主催するセミナーに参加して情報を収集することも、自社の分析精度を高めるための近道となるでしょう。 

 

実際の企業におけるハザード分析の事例 

ゼロからハザード分析を始めるのは困難ですが、公的機関が公開しているモデル事例を参考にすることで、自社に合った分析表をスムーズに作成する助けになるでしょう。 

参考となる事例 

業態の規模と特徴 

実務に活かせる主なポイント 

惣菜製造業のモデル 

大量調理・多品目製造の工場 

加熱と冷却の厳格な温度・時間管理の基準 

一般飲食店の導入例 

小規模な厨房・多種多様なメニュー 

交差汚染を防ぐための器具の使い分けと保管方法 

 

厚生労働省が示す惣菜製造業の分析モデル 

厚生労働省は、さまざまな業種に向けたHACCP導入の手引書を公開しています。その中にある惣菜製造業向けの資料では、ハンバーグや野菜サラダといった具体的な品目を用いたハザード分析のモデルが存在しています。食肉の受け入れ段階での病原微生物の混入リスクや、加熱工程における中心温度の管理基準(75度で1分以上など)が詳細に記載されています。自社で類似の製品を扱っている場合は、このモデルの数値をベースにして、自社の設備能力に合わせた微調整を行うことで、科学的根拠に基づいた分析表を効率よく作成できるでしょう。 

参考:HACCP(ハサップ): HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(表紙検索)|厚生労働省 

 

飲食店における交差汚染の防止策導入例 

小規模な一般飲食店向けのHACCP導入手引書においても、実用的なハザード分析の事例が紹介されています。飲食店では厨房のスペースが限られているため、生の肉や魚から他の食材へ細菌が移ってしまう交差汚染のリスクが非常に高くなります。生肉用と加熱済みの食品用でまな板や包丁の色を明確に分けることや、冷蔵庫内での保管位置(肉類は一番下の段に置くなど)をルール化する予防措置が示されています。大規模な機械を導入しなくても、日々の作業手順と整理整頓を工夫するだけで、重大な生物的ハザードを効果的に管理できることがわかります。 

参考:0000179541.pdf 

 

まとめ 

この記事の要点として、ハザード分析を成功に導くための重要なポイントを整理します。 

  • 全工程を可視化し、生物的・化学的・物理的な危害要因を漏れなく洗い出すこと 
  • 発生頻度と健康被害の重大性に基づき、対策の優先順位を論理的に評価すること 
  • 現場の従業員が無理なく確実に実行できる、具体的で明確な管理基準を設けること 
  • 環境の変化や新しい設備導入に合わせて、定期的に分析表の見直しと更新を行うこと 

適切なハザード分析を実践し、現場と一体となった継続的な衛生管理体制を構築して食品事故の不安を取り除いていきましょう。 

 

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この記事を書いた人

インターテックジャパン 電気・電子部門編集部

SAIグローバルジャパン 編集部

2009年にSAIグローバルジャパンに入社。 主に技術顧問として審査書類のレビューに携わる傍ら、自身も品質・環境・安全衛生の審査員として審査業務に従事。